2013年11月11日月曜日

安達太良山の初秋〜その2

智恵子の 空
 

 深緑に輝く背の低いハイマツの茂みをぬけると、稜線遠くに目指す安達太良山の山頂・乳首(ちくび)岩場と、その左側の嶺づたい奥に、赤茶けた鉄山(くろがねやま)の岩場が切り立っている。その稜線上に智恵子のいう「ほんとうの空」が雲をたなびかせ輝いていた。
 少しの休憩を終え、標高1700mの山頂にたどり着いたときには、いつしか青空は消え、目の前に隆起する巨大な乳首岩は、霧の中にボンヤリと薄衣(うすごろも)をまとっていた。

 クサリ場をよじ登り、薄曇りの雲の中にたたずむ岩場頂上は、峰を越える風が吹き荒れていた。肌寒くも、乳首岩に抱きつき頬ズリしたら、下界の遠く彼方から、智恵子の「アァ〜ン……」というささやきが、風に乗ってかすかに聞こえた。?…気がした。

 しばらくして、鉄山下渓谷にある「くろがね小屋」を目指し下山を始める。幾つかのトレッキング・コースが交差する分岐近くの岩場には、赤丸印の道標が頼もしく誘導してくれる。そして日暮れ少し前に、予定通り「くろがね小屋」にたどり着いたのだった。
 翌朝、山小屋の周りは朝霧に囲まれていた。
 食事を終えたあと、小屋の乳白色・源泉掛け流し温泉でのんびり朝風呂を浴び、霧の晴れた11時過ぎに下山を開始する。初秋に色づく紅葉を眺めながら整備されたトレッキング・コースをゆっくりと下りてゆく。
 下山コース終盤に、安達太良渓谷の「渓谷・遊歩道コース」を歩く。 
 小さいながらも美しい数本の滝と、ミズナラやカエデ、モミジなど広葉樹林豊かなこの渓谷には、小さな秋が始まっていた。紅葉真っ盛りには、さぞかし美しい秋景色なのだろうと、滝横でしばし佇(たたず)み、錦(にしき)織なす紅葉に想いをめぐらす。

 ふと見上げると、黄色く色づいたミズナラの向こうに、水色の青空がひろがっていた。


 智恵子の言う「ほんとうの空」とは、
季節ごとに変化する色とりどりの美しい山々と、その裾野にひろがる集落の、田畑を潤し多くの命を育む豊かな「清き水」の流れ、それらを生み出す嶺峰にかかる白き雲や風、そして降り積もる真白き雪などの全てがひとつに重なることで、はじめて「ほんとうの空」であることを伝えたかったのかもしれない。

 
2011年3月 、あの忌まわしい原発事故以後、久しぶりに阿武隈山系を歩き、
悲しくも…、そんな想いが、
あの白い雲と共に、胸奥にひろがっていった。






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